当塾では、J 1より Oxford の原書を読んでいただきます。英米人が書いた本物に最初から慣れ親しむ必要があると考えるからです。J 1の4月末から読解教材『ドン・キホーテ』を取り入れ、J 2で『八十日間世界一周』を終えた後、J 3からは「短文」「長文」「原典講読」という形式で読解力を多角的に養成してまいります(宿題としてB4用紙1~2枚)。
短文では文章の一文ずつ文型、品詞、要素などを細かく解析して「文法的に精確に読む」訓練をいたします。この訓練は、将来的に「大量に早く精確に読める」ようになるために避けて通れません。「大量に早く精確に読める」にはできるだけ「文法が無意識化されて」いなければなりません。そうするには「文法的に精確に読む」という作業を反復して文法の「型を体に染み込ませる」のが最も確実な方法です。「文法は文法問題を解くよりも生きた文章のなかでこそ身につく」と言われるのはそのためです。
高校生にもなると生徒は「速読」の仕方を教えて欲しいといいますが、残念ながら「速読」の手っ取り早い方法などございません。高校生がJ 1の『ドン・キホーテ』を速読できるとすれば、それはストーリーが単純で単語が平易であることのほかに、文法を意識せずに読めるからです。何か特別の速読の方法を用いているからではございません。たとえば「英語では疑問文は主語と動詞の順序が逆になる」といった文法規則はもはや一々意識されません。すでに体に染み込んでいるからです。
速読に関連して申し上げますと、当塾で徹底して訓練しているのは、英文を「前から前から読む」ということです。たとえばTom was absent from school yesterday because he was ill.は「トムは欠席した、学校を、昨日、病気だったので」と読んで十分に理解できます。和訳の試験問題でもない限りわざわざ「トムは昨日病気だったので学校を欠席した」にして読む必要はございません。後に関係詞節や時や理由の副詞節が続いていると、日本語的な語順に引っ張られてそちらから先に読もうとしますが、混み入った長い英文になるとお手上げです。英文をその語順のままに読んで(つまり書き手の思考の流れに沿って)理解できるようになって初めて本当に英語が読めると言えます。「速読」ができるようになるには、まずこの「前から読む」習慣を身につけるのが第一歩です。
一方、長文では「文脈を踏まえて読む」ことに重きを置きます。高学年になると小説でも評論でも内容が高度になってまいります。すると「全体として何を主張しているかが分からない」という声を耳にします。その原因は第一に、ある一文を訳し終えると、いま訳したばかりの文の内容を踏まえないで次の文を訳し始めるからです。いいかえますと、英語を日本語にただ「変換する」作業に没頭しているためです。一文一文の間には「対立」「因果」「列挙」「換言」など様々な関係性がありますので、それを予想し、踏まえて読み進めないと全体の主張は見えてまいりません。そして第二に(こちらがより根本的なのですが)、「何が語られているのだろう」という好奇心・問題意識をもって読まれていないためです。それを養うものとして「思考力」「日本語力」「教養力」が大切となります。
なお、当塾で取り上げる読解教材は、オスカー・ワイルド、オルダス・ハクスリー、ジョージ・オーウェル、サマーセット・モーム、バートランド・ラッセルなど、音調・修辞・内容の点で昔から定評のある作家たちばかりで、欧米で一流の知性、一流の英語とされております。比較的平易な語彙や構文を使い、明快ながら力強くも格調高い英文は、優れた読解用教材であると同時にそっくりそのまま英作文のお手本にもなります。さらに、ルネ・デカルトの『方法序説』(英語版)、ラッセルの『教育論』や『文化・政治論』、オーウェル『動物農場』はすべて原書で読みますので、是非、「思考力」を鍛え、「教養」を身につける機会としていただきたく存じます。